京都というのは建都以来久しく繁栄してきた。今もそれなりに繁栄しているともいえる。ところが平安京以前の都は数年から数十年ごとに遷都されており、本当の意味で恒久的な都造りは行われてこなかったのである。そもそも世界を見ても千年以上繁栄した都市は数えるほどしかない。
我が輩の素人の勘であるが（ええかげんな）これは平安京存続に人生を掛けた桓武天皇の執念だと思うのである。
平安京に先立つこと10年、桓武天皇は長岡京に遷都するが、藤原種継暗殺事件以来、不吉なことが次々と起こる。政敵の怨霊ととらえた帝は理想の新天地を求め、再び遷都する。
二度と失敗はしないという強い決意の表れだろうか。従来にはない徹底した都造りをする。まず風水の観点から理想的な要件を備えた葛野郡（かどのぐん）を選び、その上で複雑怪奇な法力による防御網を整備する。
日本古来の神道と中国伝来の陰陽道を合体させた強力無比な存在、大将軍を創造し都の東西南北に大将軍社を置く。悪鬼を退散させる一切経を東西南北の古代信仰の霊地、岩倉（磐座）に埋め、政敵の怨霊を鎮める社を次々に建立する。
鬼門（東北）の方角には御陵神社、狸谷山不動院、さらには最澄に比叡山延暦寺を作らせ、裏鬼門（南西）にも城南宮、大原野神社で守らせる。他にも東西南北、斜めの方角はことごとく魔界封じの装置を置いている。
神道、陰陽道、仏教、風水、産土神など使えるものを総動員して、十重二十重に結界や呪術システムを張り巡らせていく。花の都を一皮むけば、そこは魔界都市・呪術都市・霊場都市・怨霊都市の実態が見えてくる。
都の名前も従来は地名が当てられてきたので、本来は葛野京になるところが、平安であって欲しい願いをこめて平安京（たいらのみやこ・へいあんきょう）と名付けられている。
同時に京都という地名もつけられたがこれも特殊である。「京」「都」はどちらも「みやこ」と読み共に首都の意味がある。わざわざ同じ意味の言葉を重ねて表記したのも強い意志の表れであろう。
桓武天皇は二度と遷都しないよう言い残し崩御するが、果たして大同5年（810年）に都を平城京に戻そうとする薬子の変が起こる。時の帝、嵯峨天皇は機先を制してこれを鎮め、小野篁、安倍晴明など魔界封じのスターが登場し、ここに千年の都の礎ができた（実は平清盛が強引に5ヶ月間だけ福原京に遷都しているが）。
昔、平安京エイリアンというゲームが流行ったが、かつて平安京には正しく怨霊というエイリアンがいたのである。今も魔界都市の遺構が多数残る京都には桓武天皇の情念がまだ生きているように思うのである。